基本的な運転免許制度

身体障害のある方が新規で自動車免許を取得したり、病気や怪我で後遺症が残った方が運転を再開させる場合では、ケースによっては特別な免許手続きが必要になります。この手続きを怠ったり、虚偽の手続きを行うと、罪に問われることがありますので注意が必要です。

■どんな病気や後遺症が対象になりますか?

運転免許制度上、特別な免許手続きの対象になる可能性のある病気や後遺症はたくさん種類がありますが、それらをまとめて「一定の症状を呈する病気等」と言います。また、「特別な免許手続き」のことを「適性検査・又は臨時適性検査」といいます。

大まかに分類すると以下の5項目に該当する症状があったかどうかが重要です。

  • 1、過去5年以内において、病気(病気の治療に伴う症状を含みます)を原因として、または原因は明らかではないが、意識を失ったことがある。
  • 2、過去5年以内において、病気を原因として、身体全部またはの一部が、一時的に思い通りに動かせなかったことがある。
  • 3、過去5年以内において、十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中、活動している最中に眠り込んでしまった回数が週3回以上となったことがある。
  • 4、過去1年以内において、次のいずれかの状態に該当したことがある。●飲酒を繰り返し、絶えず体にアルコールが入っている状態を3日以上続けたことが3回以上ある。
     ●病気の治療のため医師から飲酒をやめるよう助言を受けているにもかかわらず、飲酒したことが3回以上ある。
  • 5、病気を理由として、医師から、運転免許の取得または運転を控えるよう助言を受けている。

 

(注意点)

  • 最終的に適性検査や診断書提出の対象になるかならないかは「公安委員会」が決定しますので、自己の判断や病院からの助言を鵜呑みにすることなく、免許センターへ相談しましょう。
  • 対象となる病気や後遺症は、病名や障害名だけで判断されることはありません。(認知症を除く)
  • 該当するか否かに関わらず、ご本人が運転に不安を感じていたり、家族などから心配されている等の場合は、免許センターの安全運転相談窓口に電話をして相談しましょう。

■対象になることの多い病気等

参考までに対象になる可能性のある病気を警察庁資料から抜粋してご紹介します。あくまでも目安ですので、最終的には免許センターへ相談します。

統合失調症/てんかん/反射性(神経調節性)失神/不整脈を原因とする失神(植込み型除細動器ペースメ―カーなど)/起立性低血圧等による失神/無自覚性の低血糖/薬剤性低血糖/その他の低血糖(腫瘍性疾患・内分泌疾患・肝疾患・インスリン自己免疫症候群等)/そううつ病/重度の眠気の症状を呈する睡眠障害/急性一過性精神病性障害/持続性妄想性障害等/脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血・一過性脳虚血発作等)/認知症(アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症・前頭側頭型認知症(ピック病)/レビー小体型認知症・甲状腺機能低下症・脳腫瘍・慢性硬膜下血腫・正常圧水頭症・頭部外傷後遺症等)/アルコール中毒/肢体不自由(体の麻痺や欠損、切断・筋力が低下する病気等・聴覚障害・視野障害等)

(注意点)

  • 上記の病名や障害名はあくまでも目安です。適性検査の対象となる病気の種類や免許の更新可否の判断基準は逐次更新されます。なお、上記名称は2023年3月初旬現在の通達基準です。
  • 上記の対象の病気や障害のケースのすべてで免許が取り消されることはありません。それぞれの疾患や症状によって個別に判断されます。
  • アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症・前頭側頭型認知症(ピック病)・レビー小体型認知症は所謂欠格事項です。

 

■自分は対象かな?と感じたら

まずは、最初の選択が必要です。①病気や障害を機に免許を返納する。②運転に挑戦する。③運転は止めるが免許は持っていたい。3つのうちあなたはどの選択をされますか?

これを機に免許を返納する
ご本人の年齢や障害の状態、再発の可能性などを考慮して免許を返納する方もいらっしゃいます。もちろん代替の移動手段が用意できるなど社会的な要因も重要ですが、いずれにせよ免許のない暮らしはやってきます。年を取ればとるほど自動車を手放しにくくなる方も多いです。なお、免許を返納する方法については、地元の警察署などに持参して返納の手続き行い、運転経歴証明書の交付を受ければ、地元の店舗などの割引や公共交通機関の割引などの優遇を受けることが可能なケースもあります。優遇の内容は自治体によってまちまちですので、確認してください。また、返納手続きをせずに、更新期限までに更新手続きを行わなければ免許証は自然に消滅します。運転経歴証明書は写真付きで免許証とそっくりなカードです。各種の本人確認に利用可能なものですので、手続きをすることをお勧めします。
運転に挑戦する
どうしても運転することが必要であると考えたら、まずは主治医に運転をすることへの許可が出るか打診してみましょう。許可が出る見込みがあれば免許センターへ電話をして、安全運転相談窓口で相談してください。(必ず事前の予約が必要です)
運転は断念するが免許だけは欲しい
本来免許証は自動車を運転するために取得するものですので、運転はしないが免許を持っていたいということは警察には通用しません。しかし、そう思う人が多いのも事実でしょう。せっかく高いお金を払って教習所に通って取得した免許証。いろいろな思い出が詰まった、単なるカードではないというのは私どもも理解します。こういう時は、主治医に対しては「運転する気もないし、自動車も処分する」等、明確な意思表示が大切です。なお、免許センターの相談窓口ではこの論理は通用しません。

■まずは相談がスタート。さあ、どこへ相談したらよいか?

運転を始めたい。そう選んだら、次は相談です。相談先は以下の二つあります。

①免許センター
免許センター(運転免許試験場)の安全運転相談窓口です。#8080に電話を掛けると地元の免許センターの安全運転相談窓口に直通でかかりますので便利です。安全運転相談は以前は適正相談と呼ばれていましたが、令和元年から名称が変わっています。電話をすると、まずは面談で相談を行うための予約を行うのが一般的です。予約の日に改めて出向き、体の状態、病気について、どういう理由で運転をしたいのか?どんな車に乗っているか?など様々な内容について聞かれます。その内容を総合的に評価した上で、どうしたらいいか助言を与えてくれます。そのまま免許を更新してくれることもありますし、主治医の診断書の提出を求められることもあります。場合によっては免許を返納するよう言われることもあります。いずれにせよ全ての内容に正直に答えるのが得策です。免許センターは杓子定規な対応は基本的にしませんので、相談に乗ってもらうと良いと思います。
②主治医
「一定の症状を呈する病気等」に該当する病気や障害がある場合は、免許の手続き上医学的な評価が必要になる場合もあります。そういうケースでは免許センターに行く前に主治医に対して「運転してよいか?」聞いてみるのは良いことです。大丈夫と言ってもらえたなら、そもそも特別な免許手続きは不要かもしれません。許可できるかどうか検査しようと言われたら、それは保留して、先に免許センターへ相談します。医師の評価が必要かどうかは「病院が決めることではなく」「免許センターが決めることです」。もし強制的に検査をしようとする病院があったら、その病院は道路交通法の知識や運転リハの経験が不足している可能性がありますので気を付けましょう。

■診断書の提出を求められたら

安全運転相談で「主治医の診断書を持ってくるよう」言われることがあります。同じ病気や障害であっても、診断書が必要になるかどうかはマチマチです。ある人は診断書を持ってくるよう言われ、同じ病気であっても必要ありません。と言われることもあります。もし診断書の提出を求められたら、それは、診断書の内容を見てみないと運転を許可できるか出来ないか判断が付かない境界域にいる人だと考えられます。なお、診断書を提出するかしなくてよいかについては、免許センター(公安委員会)に決定権がありますので、病院が決める事ではありません。稀に病院が「あなたは診断書の提出が必要です」などということがありますが、こういう病院は免許制度を理解していない病院かもしれません。注意しましょう。

■そもそもいつ手続きすればいいの?

一定の症状を呈する病気等に該当する方や、医師から運転を控えるよう助言を受けた人が、やらなければならい適性検査や臨時適性検査は、そもそもいつの時点でするのでしょうか?退院するとき?運転を始めるとき?正解は、実際に運転を始める前の時点、もしくは次の免許更新の日です。退院するときにすぐやらなくても構いません。退院してすぐに運転する予定が無いのならば、慌てて手続きをしなくて大丈夫です。次の免許更新の時に一緒にやれば大丈夫です。また、退院してすぐ運転したいという時は、運転を始める前に手続きが完了していなければなりません。完了していないのに運転することは道路交通法違反に問われますし、事故でも起こせば交通事故ではなく「危険運転致死傷罪に問われかねません」

■主治医や薬剤師から運転を控えるよう助言を受けた場合

主治医や薬剤師から「運転は止めて下さい」とか「控えて下さい」と言われることは少なくありません。この場合はその助言を守って運転してはいけません。特に、薬剤師は言葉では言わなくても、薬をもらう時に一緒に渡される「薬の説明書き」に書くことが多いです。薬の説明に機械類の操作や運転を控えるよう書いてあった場合も、その薬を飲まなくても済むようになるまでは、決して運転はしてはいけません。運転を控えるような助言を受けたのに運転をすることは道路交通法に違反しますし、事故でも起こせば「危険運転致死傷罪」に問われることがあります。詳しいことについてはこちらのページをご参照ください。

 

次はいよいよ具体的な免許手続きについてご紹介いたします。