初めての身障ドライバー1

■はじめに

病気や怪我の影響で体に障害を負った方が、自動車免許を取得する。また退院後に運転を再開させる。このような希望を持った方はたくさんいます。

当会へは、このような希望を持った方からの相談が年間で約2000件ほどあります。

日常生活で運転を必要とする方をはじめ、運転する仕事に復帰したい方、生きがいの一つとしての運転などなどニーズは様々です。

他方、日本では交通事故に対する批判は近年高まり、てんかん発作による事故や認知症や加齢による自動車事故が日々報道され、高齢者や障害者の免許制度は改正のたびに厳しさを増しています。

また、運転を支援する医療機関や従事者も減少しており、運転に対して積極的に応援してくれる病院は多くありません。「運転は止めてほしい」と考える病院の方が多いと当会は考えています。

運転免許の取得や運転の再開は、残念ですが相当な困難が伴いますし、実際に病気や障害のあるドライバーは年々減り続けています。

下表のように、身体障害者用車両限定(手動式限定や左アクセル限定等)の免許保有者数は、毎年数千人規模で減少を続けており、2019年には4千人超の現象となっています。減少の理由については不明と言わざるをませんが、当会の経験から、社会的要因(家族や医療機関からの反対や当事者の孤立化による情報不足。事故の経験など)があるのではないかと想像しています。

身体障害者に対する条件付き運転免許の保有者数の対前年比の増減人数(警察庁資料より当会集計)

高齢ドライバーの自動車事故の原因と言われ着目されている要素は「身体能力の低下」と「認知機能の低下」です。この要素はそのまま身障ドライバーにも当てはまります。

筋力が低下してゆく病気や体の麻痺や可動域の制限、脳卒中や脳外傷による認知機能低下などです。

このようなネガティブな話しから始まりましたが、昭和35年の身体障害者の欠格事項廃止以降、大勢の身障者が自動車免許を取得して運転を継続していることも事実です。

その大きな理由は「支援者の存在」「支援体制」「社会の受容」等であると私たちは考えていますが、この3つの要素は、現代社会では消えてなくなってしまいました。

当会では、この失われた要素を少しでも補うことを目的にボランティア活動を行っています。

■「安全な運転」とは?

「安全な運転」という単純な言葉ですが、どういう意味なのか?考えてみると意外に難しいものですし、人や立場によって見解は多様です。

当会が考える「安全な運転」とは「事故を起こさない運転」です。

自動車の事故は、避けられる事故と避けられない事故があります。

急な飛び出しで物理的に止まることも避けることも出来ない場面では、事故を避けようがありませんが、少なくとも避けること可能な事故については、ドライバーの責任で回避できます。

どうすれば事故を起こさない運転が出来るのでしょうか?

交通違反をしない
制限速度や一時停止、信号などは、仮に全員が間違いなく順守できれば、多くの事故を防ぐことが出来ますが、そもそも人間は常にルールを順守できる脳を持っていません。持っていたとしたら、それは秀でたの能力(才能)の持ち主です。従ってルールを順守する能力が低下する病気や障害があればなおのこと、順守は困難になります。例えば信号を守りたい気持ちがあっても、信号機を見落としてしまっては、ルールは守れません。一時停止を守りたいと思っていても、標識を見落としてしまっては事故は避けられません。交通ルールを守ることと人間の高次の認知機能には大きな関係があるのではないでしょうか。
ぶつかる前に止まる
事故を回避するために必要なことは次の二つの要素を満たすだけで十分です。一つは「ぶつかる前に止まる」もう一つは「ぶつかりそうだと出来るだけ早く気付く」ことです。ぶつかる前に止まるには身体能力が重要です。急停車のために十分な力でブレーキを踏み込むことのできる筋力と、ブレーキを踏むまでの反応する能力が問われます。ハンドルで避けるには、急ハンドルを切ることのできる十分な筋力が必要ですし、急ハンドルを切ってもきちんと座席に座り続ける筋力も重要です。片手でハンドルを操作する方は、両手で操作する人よりも大きな筋力が必要なことはお分かりの通りです。
上の二つの要素は当たり前のことだと誰もが感じるはずですが、体に病気や障害があると、ケースによってはそれらが出来なくなってしまうことがあります。

上の二つの要素は当たり前のことだと誰もが感じるはずですが、体に病気や障害があると、ケースによってはそれらが出来なくなってしまうことがあります。

例えば、体の麻痺や切断、筋力が低下する病気などであれば、適切な運転操作に必要な身体能力が低下し、「ぶつかる前に止まる」ことが出来なくなりますし、認知機能障害があれば、交通違反をしないために必要な注意力や確認、感情のコントロールなどが低下して、結果的に事故を防ぐことが出来ないケースもあります。

また、進行性の障害や病気では、今は運転できるけど、そのうち出来なるという日がやってきます。

■「私は運転できますか?」それは誰にもわかりません。やってみなければわからない。このような内容が当会に寄せられる一番多い相談です

自分自身が今後も自動車を運転することが出来るのか?出来ないのか?免許が取れるか取れないか?これらの質問に対して、当会では以下のような助言をしています。

①出来るかどうか迷っているということは、出来ない場合の代替移動手段に何らかの当てがあるということではないでしょうか?そのような代替手段があるならば、リスクの高い運転を選択する必要はないのではないでしょうか?世の中には車を運転せずに暮らしている人もたくさんいます。

②「運転」というものをどのように考えるかで、結論は変わってきます。自動車は所詮道具にすぎません。それを使うのは人間です。道具をどう使うかは人間次第です。包丁は魚をさばくのに便利な道具ですが、使い方を誤れば人を殺す道具にもなります。

■身障者の自動車運転への道は険しい挑戦です。

身障者が自動車免許を取得したり、受傷後に運転を再開させることは、スポーツに例えることが出来ます。つまり、出来るか出来ないかはやってみなければわからないし、それは挑戦です。当会は何万人もの身障者をサポートしてきましたが、無事に運転にたどり着いた人もいれば、途中で断念した事例もあります。また、運転にたどり着いたとしても、その後長い間に渡って事故もなく運転を継続できた人がいる一方で、あっという間に大きな事故を起こして人を傷つけてしまったり、危険運転致死傷罪で刑務所にいる人もいます。つまり、あなたが希望する免許取得や更新の夢を実現できたとしても、必ずしもハッピーな人生を送るとは限らないのです。残念ですがこれが現実です。

■それでも自分には免許が必要だという方へ

ここまではネガティブな情報ばかりが強調されてきたように思いますが、これが現在の身障ドライバーの現実ですので、ぜひ最初に知ってもらいたいと思ってご案内致しましたが、それでも「自分は免許が必要だ」と考える方は是非このホームページを隅から隅までお読みになって、まずは知識として学んでください。そしてわからないことや困った事があれば当会まで相談してください。