脳卒中・脳外傷の運転免許手続き2

認知機能障害の有無が分かれ目です

脳卒中、脳外傷共に、運転免許の更新には認知機能障害の有無が重要な要素になります。一般的にこれらの障害のことを高次脳機能障害と呼んでいますが、この言葉は障害者総合支援法だけで使われる言葉ですので、道路交通法では認知機能障害、又は認知症と呼ばれます。脳卒中や脳外傷に罹患しても、必ずしも全員に認知機能障害が残るとは限りませんが、障害が残っているのでしたら、免許更新はかなり厳しいのが現実です。なお、認知機能障害が残っていなくても、免許手続き(安全運転相談や臨時適性検査)は必要ですので必ず手続きを行ってください。)

診断の難しさ

一般的な認知症、例えばアルツハイマー病などは欠格事項となっていますので診断が確定した時点で免許取り消しになりますが、脳卒中の場合は必ずしもそうではありません。特に、認知機能障害があるかないか微妙な障害(境界域)の場合は、医師の診断によって免許更新が出来るかどうかの診断が行われます。

主治医は「安全な運転に支障がある状態であるか否か」を評価しますが、「安全な運転」とは何を指すのか?明確な定義もないまま、診断書を書かなくてはいけない役割を担っています。交通事故を起こさない運転が安全な運転と仮定するなら、そのようなドライバーはこの世の中に一人もいないでしょう。この国では全ドライバーが一生の間に3回は事故を起こすと言われているからです。

また、安全な運転に必要な認知機能とはどんな機能で、どの程度必要なのか?この点についても科学的には非常に曖昧であり、確たるエビデンスは世界に存在しません。

近年運転シミュレータや教習所を使った実車評価を行う医療機関が増えていますが、これらの検査がどの程度有効なのか?これは全く不明のままです。

ここで私どもが言いたいのは、診断書で良い結果が得られたからと言って、それは安全な運転へのお墨付きでは全くないという事です。

運転再開に当たって十分に自覚することが大切です。

主治医が考慮する内容

主治医は神経心理学検査等の結果以外にも、運転の可否を考える上で考慮する要素があります。

再発の可能性
最も重要な点が再発の可能性です。運転中に脳卒中を再発させたら大変なことになります。従って、再発の可能性について慎重に考える必要があり、そのための経過観察の期間が必要になることがあります。軽い症状で短期間の入院で済んだとしても、すぐに運転が許可されるとは限りません。
回復可能性
入院したばかりのタイミングでは障害が酷くても、一定の期間が経つと障害が軽減されてくることがあります。従って、患者がどの程度の回復の可能性があるのか主治医は考えます。
服薬
脳卒中や脳外傷の患者は、多くの場合運転禁止の医薬品を服用せざるを得ません。特に強い痛み止めや抗うつ薬などの向精神薬、血圧を下げる薬などは、副作用の影響で意識障害を起こす可能性があります。副作用が出るかどうかは個人差があり、主治医は患者に副作用が起こるかどうか慎重に観察します。副作用の可能性が低いと判断できるタイミングが来る前に運転再開の診断書を書いてもらうよう頼むと、主治医は副作用の判断できずに運転不可の診断を下さす場合もあります。
てんかん発作の有無
発症後にてんかん発作が起きた場合、認知機能に障害が残っていなくても、最後の発作から3年間発作が起きないことを証明できないと運転免許証を更新することが出来ません

運転シミュレータや実車評価の目的

これらの検査で病院は何を知ろうとしているでしょうか?ハンドル操作やペダルの操作、つまり運転の技量を見ているわけではありません。病院はこれらの検査で運転中の注意力や集中力、法令の遵守を検査しています。集中力や注意力は、所謂運転が上手いのとは違います。稀にシミュレータや実車評価で上手に運転したのに、主治医のOKがもらえなかった、という相談を受けますが、コースを走り切れるかどうかはあまり関係はありません。

患者は出来るだけシミュレータや実車評価の環境が整った医療機関で検査してもらうことを希望していますが、実際にはかえって検査に落第する確率が高くなるだけでしょう。

臨時適性検査の可否判断基準

警察庁の内部資料には脳卒中や脳外傷のケースにおける免許更新の可否の基準を作っていますので以下にご紹介します。

脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作等)(令第33条の2の3

第3項第3号関係)

(1) 慢性化した症状

見当識障害、記憶障害、判断障害、注意障害等は「認知症」、運動障害(麻痺)、視覚障害(視力障害等)及び聴覚障害については「身体の障害」に係る規定等に従うこととする。

(2) 発作により生ずるおそれがある症状

ア 脳梗塞等の発作により次の障害のいずれかが繰り返し生じている場合については、拒否又は取消しとする。

(ア) 意識障害、見当識障害、記憶障害、判断障害、注意障害等(認知症に相当する程度の障害に限る。)

(イ) 運動障害(免許の取消事由に相当する程度の障害に限る。)

(ウ) 視覚障害等(免許の取消事由に相当する程度の障害に限る。)イ アを除き、過去に脳梗塞等の発作でアに掲げる障害のいずれかが生じたことがある場合については、以下のとおりとする。

(ア) 医師が「「発作のおそれの観点から、運転を控えるべきとはいえない」(以下8において「免許取得可能」という。)とまではいえない」旨の診断を行った場合には拒否又は取消しとする。

(イ) 以下のいずれかの場合には6月の保留又は停止とする。(医師の診断を踏まえて、6月より短期間の保留・停止期間で足りると認められる場合には、当該期間を保留・停止期間として設定する。)

a 医師が「6月以内に免許取得可能と診断できることが見込まれる」旨の診断を行った場合

b 医師が「6月以内に、今後、x年程度であれば、免許取得可能と診断できることが見込まれる」旨の診断を行った場合

上記a及びbの場合には、保留・停止期間中に適性検査の受検又は診断書の提出の命令を発出し、

① 適性検査結果又は診断結果が上記ア又はイ(ア)の内容である場合には拒否又は取消しとする。

② 以下のいずれかの場合には更に6月の保留又は停止とする。(医師の診断を踏まえて、6月より短期間の保留・停止期間で足りると認められる場合には、当該期間を保留・停止期間として設定する。)

ⅰ 「結果的にいまだ免許取得可能と診断することはできないが、それは期間中に○○といった特殊な事情があったためで、更に6月以内に免許取得可能と診断できることが見込まれる」旨の内容である場合

ⅱ 「結果的にいまだ、今後x年程度であれば免許取得可能と診断することはできないが、それは期間中に○○といった特殊な事情があったためで、更に6月以内に、今後x年程度であれば免許取得可能と診断できることが見込まれる」旨の内容である場合

③ その他の場合には拒否等は行わない。

(ウ) その他の場合には拒否等は行わない。

(エ) 「今後、x年程度であれば、免許取得可能である」旨の診断を行った場合(上記イ(ウ)に該当)については、一定期間(x年)後に臨時適性検査等を行うこととする。

(3) 本基準については、脳動脈瘤破裂、脳腫瘍等についても準用する。

難しい内容ですが、単純に解釈すれば認知機能障害があるケースは免許取り消しになるという、認知症のケースを当てはめています。

脳外傷の後遺症の場合は、以下のような基準があります。

その他の認知症(甲状腺機能低下症、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、頭部外傷後遺症等)

ア 医師が「認知症について回復の見込みがない」又は「認知症について6月以内に回復する見込みがない」旨の診断を行った場合には、拒否又は取消しとする。

イ 医師が「認知症について6月以内に回復する見込みがある」旨の診断を行った場合には、6月の保留又は停止とする。(医師の診断を踏まえて、6月より短期間の保留・停止期間で足りると認められる場合には、当該期間を保留・停止期間として設定する。)保留・停止期間中に適性検査の受検又は診断書の提出の命令を発出し、

① 適性検査結果又は診断結果が「認知症について回復した」旨の内容である場合には拒否等は行わない。

② 「結果的にいまだ「認知症について回復した」旨の診断はできないが、それは期間中に○○といった特殊な事情があったためで、更に6月以内にその旨の診断を行うことができる見込みがある」旨の内容である場合には更に6月以内の保留又は停止とする。

③ その他の場合には拒否又は取消しとする。

(3) 認知症ではないが認知機能の低下がみられ今後認知症となるおそれがある場合医師が「軽度の認知機能の低下が認められる」「境界状態にある」「認知症の疑いがある」等の診断を行った場合には、その後認知症となる可能性があることから、6月後に臨時適性検査等を行うこととする。なお、医師の診断結果を踏まえて、より長い期間や短い期間を定めることも可能である。(ただし、長期の場合は最長でも1年とする。)

脳外傷の場合は、高次脳機能障害はその他認知症として分類されています。

どんな人が運転の可能性があるのか?

警察の資料をご覧いただいた通り、診断書提出によって運転再開が可能な人は、一般的に、主治医が運転できそうな見込みがあると判断して人、つまり、健常と認知機能障害の境界域にある人たちです。

次のページでは認知機能障害の運転への影響についてご紹介いたします。。