認知機能障害の運転への影響
脳卒中や脳外傷の後遺症である認知機能障害(高次脳機能障害)には、実に多様な後遺症と様々な程度による個人差があると言われています。
ここでは一般的に障害があると診断が確定している程度の障害があるケースでご紹介したいと思います。
なお、どの障害にどんな影響が出るのかについての科学的研究はほとんど行われていないのが現状です。以下は当会が実施した運転レッスンでの事例を基にご紹介いたします。
①注意障害
自動車の運転にとって注意力とその持続は安全の根幹と言える能力です。
この注意機能が脳の損傷によって低下すると以下のような危険場面が出現します。
- 信号無視
- 信号無視は一番多いケースです。視界に入っていても認識出来ない、または集中力がそがれて、別の風景などに気を取られるようです。このように信号無視をする人は、ほとんど前をしっかり向いて運転しています。それなのに信号を見落とす。注意障害の特徴です。
- 横を確認しないで曲がる
- これも注意障害に多い事例です。自分の車の横に人がいないか、自転車やバイクがいないか?確認することなく交差点を曲がる人はけっこうたくさんいます。交差点では、前も確認しながら横も確認するという、重複する課題への注意力が重要です。このような高度な注意力が発揮できない人も少なくありません。
- 横を確認しないで車線変更
- 車線変更をするには、変更する側に別の車両がいない事を確認してから行うのは当たり前の事ですが、これもやはり前方に注意しながら横方向にも注意するという重複する注意課題に対処する必要があり、注意障害のあるかたが起こしやすいシチュエーションです。
- 前方の停止車両に気付かない
- 同一車線を走行している前方の車が、進行方向右側のコンビニに入ろうとして、車線上で停車する。日常的に起こるシチュエーションですが、このような時に前方の車両を見落として追突する事も起きます。ドライバーはよそ見をしているわけでも目をつぶっているわけでもなく、外見上は前をまっすぐ見ているのですが、前方の車を認識することが出来ないのです。
②半側空間無視
多いのが左側の認識が苦手で、歩いていても左半身をぶつけてしまったり、皿の上の食事の左半分残す等の症状が出るそうですが、自動車の運転の際も非常に危険な場面に遭遇します。
- 路肩に落ちる。ガードレースにぶつかる
- 左側の認識が乏しいと、基本的に車線の左側に寄って走行を始めます。そして、徐々に、又は急にさらに左側に接近して、路肩やガードレースに接触したり側溝に落ちたりします。
- 左折時に大きく旋回して、対向車線にはみ出す
- これも半側空間無視のある方に多いケースです。交差点を左折した際に、左側の認識が不足するため、本人が自然に左側の車幅を大きく取ろうとして、結果として曲がり終わった時には、自分の進行車線ではなく、その先にある対向車線にはみ出てしまいます。
- 車庫入れが困難
- 健常な頃なら一発で入れることが出来た自宅の車庫に、何度やっても入れられない。もしくは非常に時間がかかるようになります。
- 走行中、左側に注意できない。
- 走行中や信号で停止した時、自分の車の横に自転車や歩行者、バイク等が止まっていないか確認することは安全運転に重要な要素です。また、交差点を左折する際などは、特に自車の左側を確認することは大切ですが、左側の認識が欠如しているとこのように注意することが出来なくなる、または出来ない頻度が上がるという事が起きます。
③遂行障害
- 自動車を発進させるための手順がわからない
- 自動車を発進させるには、エンジンキーを指定の場所に差してそれを回すところから始まります。そして実際にスタートするまでにはさらに多くの手順を行う必要があります。しかし、このような障害があるとそもそもエンジンキーをどうするのかわからない、という事が起きます。
- 目的地までの経路
- 私どもは経験していませんが、目的に経路を記憶に留めてその通りに実行することが苦手な方もいらっしゃるようです。
物事を進めるための手順などを理解するのが難しい障害と言われています。