病気や障害のある人にとって、自動車による移動はとても重要です。運転を控えるよう医師から助言を受けたり、免許を返納、又は取り消しになってしまった人たちは決して少なくないからです。
これらの人たちにとって自動車が自宅まで迎えに来てくれるタクシーはとても便利です。しかし、病気や障害のある人たちや身体に不自由のあるお年寄りが、実際にタクシーを活用しているかと言えば、必ずしもそうとは言えないのが現状だと思います。
どうして、便利なタクシーがあるのに利用しないのか?詳細な調査データがあるのか私は知りませんが、知り合いや会員の話しを聞くと、いくつかの課題が見えてきます。
私が聞いた範囲での理由は、主に①お金について。そしてもう一つが②安心して乗れない。③時間を無駄に使う、という3点に集約できます。
①お金の面
端的に料金です。自家用車を保有するより日常の移動であればタクシーの方が割安であるというデータはいくらでも見つかりますが、それを理解するのは中々難しいでしょう。しかし、タクシーが割高というのは明らかに誤解に基づいていますので、これを解消する取り組みを、お年寄りにも分かりやすい方法で示すのは大切なことです。
②安心して乗れない
タクシーの運転手はこれまでの経験から、何よりも迅速に送迎する事を心に止めて仕事をします。これは顧客がそのようなニーズを持っていて、それを満たす必要があるという動機+速く送り届けることで次の顧客を探す時間を増やすという2種類の動機が混じっています。確かにビジネスマンを乗せたり、深夜に自宅へ送る場合、顧客が早く着きたいと考えるのはもっともなことですが、病院へ行こうとしているお年寄りや障害のある顧客は必ずしもそうは考えません。右へ左へと身体を揺さぶられ、信号で止まるたびに手すりを掴まなければならない乗り物に乗ってまで、早く着きたいとは思わないのです。お年寄りの中には背中が曲がっている人もいるでしょう。そういう人は背もたれに寄り掛かれません。足が不自由なら足で踏ん張ることは出来ないのです。車いすごと乗る乗客は、重心位置が高くなりますので、シートに座るよりも大きな力が身体にかかります。お客がどんな人なのか?どんなニーズをもって乗ってきたのか?急ぎたいのか?ゆっくり走って欲しいのか?顧客のニーズは多様であることを考えることが、新たな顧客を手に入れる方法の一つと思います。
③時間を無駄に使う
歩いて1時間かかる場所へタクシーなら10分で行けるなら、50分もの時間を節約することができる。そう考えるのは現代人特有です。50分という新たな時間を手に出来れば色々なことが出来て合理的です。しかし、お年寄りは必ずしもそう考える人ばかりではありません。もし10分間のタクシー乗車が楽しくなく苦痛であったなら、50分を得したと考えず10分損をしたと考えるかも知れません。嫌な気持ちを抱くくらいなら歩いた方がましだ。と考えるのは以外と自然の気持ちなのです。なぜなら私たち日本人はかつては誰でもそう考えていたからです。移動、つまり、目的地へ到達するための手段と現代人は考えますが、例えば江戸時代はそう考える人は余りいなかったと言われています。移動を手段とは考えず、移動そのものも目的の一部と考えていたと言われています。だからこそ、東海道53次など、移動を単なる手段としてではなく、目的の一部と考えからこそ生まれた芸術なのです。
現代人は移動を単なる手段、つまり目的地へ到達するためのプロセスであって、出来るだけ速くてっとり早く済ませるものと考えていますが、本来移動とは手段ではなく目的の一部なのです。この現代人が忘れた価値を提供できるのは自動車、特にタクシーが与えられる貴重な価値なのです。繰り返しになりますが、高齢者は移動を単なる手段と考えていないかも知れません。いかに移動を手段から目的の一部へと転換できるか?自動運転タクシーやライドシェアとの差別化という観点からも重要な問いかけだと思います。
母親がタクシーを使わずにわざわざ遠方で暮らす息子に送迎を頼んでくる。良くある話ですが、それはきっと移動という手段を求めているわけでなく、息子と会うという目的を果たすための行動なのではないでしょうか?
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タクシーの利用者数は少子化や経済状況等の影響を受けて右肩下がりが続いており、ドライバー不足が拍車をかけることで、タクシー事業者のお尻には火がついて慌てている。これが現在のタクシー業界ではないかと思います。
そこに突如現れたのがライドシェアです。ウーバーなどの米国企業が有名ですが、一般ドライバーが行うタクシー事業という、タクシー業界にとっては新たな競争相手が現れました。
私は個人的にライドシェアという制度は遠からずこの国に導入されるだろうと考えています。何よりもウーバーは米国企業なのですから。それに多くの国民がライドシェアを利用すると思います。ウーバーイーツが受け入れられるのと同じように、特に若者や都市生活者はライドシェアに抵抗はありません。
まだ、導入の是非についての議論のさなかですので性急ですが、もし、ライドシェアの料金体系が、既存のタクシーより安いとなれば、タクシーは絶滅の危機を迎えるでしょう。必ずしも運賃の高低ではなく、ポイント付与などによって料金の差別化は可能でしょう。
ではタクシー会社はお手上げなのか?私はそうではないと思うし、変革次第だと考えます。
では、ここで私が考える変革のヒントをいくつかお伝えしましょう。
①タクシーとは何なのか?タクシーの目的を思い出せ。
タクシーの目的は公共交通機関としての役割を果たすことです。もちろん事業者は私企業ですからそのほかにも色々の目的があるとは思います。例えば大儲けするとか。しかし、最も最重要な事業の目的は、公共交通機関の役割を果たすことに他なりません。タクシーの歴史について私は詳しくありませんが、多分、この国で最初にタクシー事業を始めた会社の社長さんは、創業に際して公益という壮大な目的を掲げていたに違いありません。それが、時を経て、社長の代が変わり、事業の高度化や組織の複雑化という一種の改良を重ねるうちに、当初の目的を忘れてしまったのです。タクシー事業を、何らかの目的を達成するための社会的道具と考えた時、道具が高度化し複雑さが増すのと同時に、当初の目的から離れていき、なおかつ、当初の目的の達成に伴う便益を上回る不利益を生み出す。これは自明なことなのです。
②なぜ便利な乗り物なのに乗りたくない人がいるのか?
これは前述の3つのテーマに関わる問題です。折角あるのに乗らない。乗りたくない。乗りたいのに乗れない。そういう隠れたニーズを掘り起こすための啓発と信頼回復は急務です。
③ハードウェア(道具)だけじゃ足りない。
近年ジャパンタクシーなど車いすごと乗車できるようなタクシーが普及してきましたが、私見ですが多分宝の持ち腐れです。結局、道具だけあってもそれを扱う人間、つまりドライバーの質が問われているのです。ジャパンタクシーでなくても、ドライバーの心持さえあれば、十分高齢者や障害者に満足してもらえるでしょう。
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今やらなければライドシェアに食いつぶされる
タクシーが絶滅するとは思いませんが、その多くが無くなるでしょう。タクシーもライドシェアも現状ならそう違いはないからです。
タクシーは2種免許が必要ですが、だからと言って2種免許ドライバーの方が1種免許保有者より安全なのかと問われて明解に答えが出るとは思いません。事業用自動車の事故は現在でも大きな社会問題なのです。また、2種免許保有者の方がお客に配慮して優しいかと言われれば、これも首をひねってしまうでしょう。ウーバーイーツの配達員は、みな笑顔で優しくお客へ対応してくれます。しかし、ライドシェアとタクシー事業には決定的な違いがあります。それはタクシーは公共交通機関であるということです。もう一度それを思い出して欲しいと思います。
最後に
ライドシェアでなくても、現在様々なな場面で一種免許保有者が一般客を送迎している現実が既に存在し、社会は必ずしも2種免許を重要視していません。有償福祉輸送やデイサービスや病院などの送迎です。しかしこれらの送迎の事故もまた大きな社会問題になっています・これらの事業は本来タクシー事業者が担うべき分野だと思います。公共交通という当初の本来的な目的、そして「公共」とは何なのか?を今一度思い出してほしいと考えています。