高次脳機能障害と自動車運転

高次脳機能障害の症状である様々な認知機能障害と自動車運転の関係について、確定した医学的知見はありません。

また、個人によって障害の程度は様々ですので、一概に決め付けることは出来ませんが、一般的には以下のような影響を与える可能性があると当会では考えています。

  • 運転中に行うべき多様な安全確認ができない。特に複数の注意を同時に確認できない。(信号と歩行者・信号と対向車など) 注意障害
  • 目的地を忘れる  記憶障害他
  • 視野が狭くなり信号や標識、歩行者を見落とす 視野障害
  • 事故発生時の救護義務が果たせない 失語症
  • 障害があることを本人が自覚できず慎重な運転が出来ない(病識が無い)
  • センターラインを越えたり、歩道に乗り上げたりする。並走するバイクや自転車に気づかない。(半側空間失認・無視)

健常なドライバーは、無意識に行っていますが、自動車運転は、認知(気づく)、判断(避ける、止まる)、操作(ハンドルやペダルの操作)を高度に行う動作であり、高次脳機能障害は、認知、判断に影響を与える障害です。また、片麻痺などが重複している場合はさらに「操作」という点からも注意が必要な障害です。

高次脳機能障害者の自動車免許制度

 高次脳機能障害は、道路交通法第90条及び103条の「一定の症状を呈する病気等」(自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気・脳卒中後遺症)に該当します。

障害の程度の個人差が大きな障害でもあります。

免許の可否判断は、最終的に免許センターでの臨時適性検査にて確定します。

臨時適性検査では、運転シミュレータ等を利用した検査が行われるほか、医師の診断書の提出が求められることも少なくありません。

医師の診断にあたっては、「再発の可能性」、「障害の状態」、「回復の見込み」、「身体機能の状態」、「服薬中の薬の種類」等を総合的に評価して診断書を作成します。

ただし、免許更新や新規取得での診断書作成を拒否する医療機関も少なくないのがわが国の現状です。

困った時は都道府県立のリハビリセンターで相談しましょう。

一般論ですが、脳卒中などの病気が原因の場合、高次脳機能障害の程度というよりも、脳卒中の再発の可能性や服薬が原因で運転不可の診断を受けるケースが多いです。

まずは免許センターと病院の双方で確認を

 高次脳機能障害は障害の状態が多様で、免許手続きについても一概に断言できません。

他方、運転が出来ない障害があることを知っていながら、その障害が原因で事故を起こした場合には、「危険運転致死傷罪」に問われることもあり、特に、退院後の運転再開に際しては、慎重な対応や手続きが必要です。

患者やそのご家族が出来ることは多くはありませんが、以下のような点は参考になるでしょう。

■入院の早期の段階から、病院に対して「退院後の運転についての意向(運転する希望があるのか無いのか?」について話しをしておく。

■運転再開の希望がある場合は、免許の次回更新日を病院へ伝えておく。

■運転再開へ向けての免許手続きについて、病院と、免許センターの双方へ問い合わせる。(病院は、必ずしも道路交通法に精通しているとは限りません)

■運転再開は困難と病院から言われたら、原因の具体的な説明を求める。

■医師に請求した診断書(免許センター宛)の内容を必ず確認する。

■医師の診断に納得できない場合は、別の医療機関へ相談することも考える。

運転再開が決まったら

臨時適性検査等の結果によって、運転再開が認められたら、いよいよ運転再開となりますが、急な車通勤や、仕事での自動車運転は危険です。

運転再開を認められたといっても、受傷前と同じ体に戻ったわけではないのです。

安全運転のために」のページをご覧になって、慎重に運転を始めることを強くお勧めします。

多くの障害者が、運転再開直後に事故を起こしている実態があります。

当会では高次脳機能障害のあるドライバーへの出張ドライビングレッスンを行っていますが、その経験から以下の点には十分注意すべきと考えますので是非参考にしてください。

  • 必ず同乗者と一緒に出かける(特に再開当初は、免許をお持ちの同乗者を乗せること)
  • 1時間を超える時間は運転しない(レッスンの実績から多くの方が1時間を超えると急激に集中力が落ちてしまいます)
  • ラジオやナビは使用しない(気が散ります。ナビの指示が無いといけない場所へは行かない)
  • 話しながら運転しない(気が散ります)
  • 左右の確認は必ず首を振って(視野障害や半側空間失認の影響を少なくするため)
  • 片麻痺のある方は運転中の転倒に注意
  • 片手ハンドル禁止。旋回グリップを使おう
  • 認知機能の低下があることを十分認識する

運転断念が決まったら

運転断念の結果は、何よりご本人が大きな失望を感じる出来事です。

「運転も出来ない体になってしまった」と気落ちする方が大半です。

また、そもそも自分に障害があることに気づかない(病識が無い)障害がある場合、なぜ自分の免許が取り消されたのか理解できないケースもあります。

一部の方は免許取消しを理解せず、無免許で運転しようとする方もいらっしゃいます。

このような方にどう接したらよいのか?困惑しているご家族は日本中に大勢おり、当会への相談件数の中でも最も多い内容のひとつです。

現在の福祉制度の中で、このような問題を解決する方法はありませんが、最終的にご本人に納得してもらうことは、今後の人生を考えてゆく上で最も重要です。

納得出来ない状態が長く続くと、うつ病を発症したり、リハビリを拒否するなどの、別の問題が生まれる可能性があります。

当会では、このようなご家族からの相談に対して、有効な助言が出来ないのですが、以下のようなアドバイスを行っています。

運転のことを忘れられるように、別の方向へ興味を移せるようにサポートする。

車が無くても外出できることを、実践によって本人に示す。(散歩、電車による外出他)

運転できないことを理解させると同時に、これまでの運転によって、家族がどれほど助かったかをねぎらう。これまで運転してくれたことに対する感謝を伝える。

日々の生活にとって最も適切な代替移動手段を探す。

ご本にとって、家族から「運転できない」と言われることほど、嫌なことはありません。

第三者(医師や警察官、ご本人の友人や親戚など))から、客観的に指摘される方が説得力があるものです。