認知症と自動車運転

 これまでも、わが国の自動車免許制度において、認知症の方が自動車運転を行うことは禁止されてきましたが、近年、認知症が原因で引き起こされた交通事故が社会問題となったことで、既存の免許保有者の中に、認知症を患っている方が多数含まれていることが問題となりました。

政府は、この問題への解決策として、免許更新時に認知機能検査を導入しました。

また平成28年施行予定の改正道路交通法では、診断書提出を要求する要件が拡大することで、認知症を患っている方が、運転をすることが無い様に施策の強化を計画しています。

一方、日本精神神経学会は、平成28年施行予定の改正道路交通法のパブリックコメントにおいて、「認知症と危険な運転との因果関係は明らかではない」とし法改正に反対の立場を表明するなど、医学的な知見と法制度の整合性に議論があることも事実です。

なお、警察庁は「認知症のおそれがあると判断された方は、健常な方に対して1,9倍事故を起こしやすいというふうな調査もあります」と国会で答弁しています。

平成21年から導入された「講習予備検査」は、75歳以上のドライバーを対象とした免許更新時に行う簡易認知検査でですが、

認知症のおそれがあるとの結果を受け、臨時適性検査(医師の診断書提出)の対象となり、実際に認知症との診断を受けた方の推移と、H29 年3月改正後の想定は下図の通りです。

  H21年 H22年 H23年 H24年 H25年 H26年 H29年(H29法改正後の想定)
臨時適性検査の件数 13 293 409 506 524 1,236 40,000~50,000
取消し件数 1 66 119 105 118 356 15,000~20,000
停止件数 0 0 1 1 1 不明 想定無し

上記の表で重要なことは、講習予備検査で結果が悪く、臨時適性検査の対象となった方であっても、

最終的に認知症であると診断を受け、免許取消しとなった方の割合は、30%弱と低いことです。

この事から、臨時適性検査の対象となったからといって、必ずしも免許取消しになるというわけではないのです。

認知症の運転免許制度

■道路交通法上で規定されている認知症の定義は以下の通りです。

「介護保険法第5条の2に規定されている、脳血管疾患、アルツハイマー病、その他の要因に基づく脳の気質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態をいう」

■認知症の自動車免許の基本的な考え方

認知症は「一定の症状を呈する病気等」に該当します。また、以下のような基準により免許の可否判断が行われます。

①アルツハイマー型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症(ピック病)及びレビー小体型認知症は免許の拒否または取消し。

②その他の認知症(甲状腺機能低下症、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、頭部外傷後遺症等)回復の見込みが無い。または6ヶ月以内に回復する見込みが無い場合、免許の拒否又は取消し。6ヶ月以内に回復の見込みがある場合は、6ヶ月間の免許停止後、再検査。さらに6ヶ月間の延長も例外的にあります。

*警察庁通達 「一定の病気等に係る運転免許関係事務に関する運用上の留意事項について」 H27/8/3より

警察庁は、平成27年参議院内閣委員会において、CDR(臨床認知症評価法)1の評価結果については、免許の拒否、取消しに該当すると答弁しています。

軽度認知障害(MCI)への対応

認知症ではないが認知機能の低下がみられ今後認知症となるおそれがある場合医師が「軽度の認知機能の低下が認められる」「境界状態にある」「認知症の疑いがある」等の診断を行った場合には、
その後認知症となる可能性があることから、6ヵ月後に臨時適性検査を行うこととする。

なお、医師の診断結果を踏まえて、より長い期間や短い期間を定めることも可能である。(ただし、長期の場合は最長1年とする。)

*警察庁通達 「一定の病気等に係る運転免許関係事務に関する運用上の留意事項について」 H27/8/3より

このように、軽度認知障害の場合の臨時適性検査では、免許は有効のまま、6ヵ月後の再検査となる可能性があります。

ご家族へ向けて

認知症を含む認知機能障害者の自動車運転において、家族のかかわりは大変重要な要素といえます。

特に病識の無いケースで、ドライバーに対して運転を断念させることは困難であり、場合によっては隠した車のキーを探し出して運転してしまう、などのケースがあるようです。

そこまでではなくとも、医師の助言や免許センターの処分に納得せず、運転を継続しているケースも少なくありません。

このようなケースで家族はどのように対応すればよいのか?については、近隣の家族会や友の会などに相談するとよいでしょう。

また、法律に反して運転を継続している場合は、主治医に相談することも一案です。

医師はこのような患者を対象に、警察へ任意通報が出来る制度があります。

医師以外にも、家族が最寄の警察署などへ相談することも可能です。