肢体不自由と自動車運転

現在、わが国の自動車免許制度において、肢体不自由に対する自動車免許取得はかなり開かれている、というのが現状です。

免許取得を希望する方が行う適性検査においても、本人の障害の状態やお住まいの地域の地域性(公共交通などの移動手段)や、生活状況等をある程度勘案した上で、免許取得の可否判断がなされている印象を持っています。

また、運転補助装置の製造販売メーカーの努力もあり、様々な障害に適用可能な補助装置が開発されていることも、免許取得の可能性の増大に貢献していると思います。

免許統計(警察庁発表)によると、全国で25万人弱の障害者が自動車免許を保有しています。(条件付免許保有者数)

このように比較的に取得しやすい肢体不自由の自動車免許ですが、他方、解決すべき課題もあります。

例えば、教習所の障害者対応の不足(運転補助装置装着教習車や障害者の教習スキルの不足)等は最たる課題といえます。

運転補助装置限定免許の取得の場合、該当の装置を装着した車輌を、教習所へ持ち込んで教習を受ける必要があり、

免許取得前に自動車購入を行うという、健常者の免許取得プロセスに対して著しい不利益が伴います。

また、新規取得の場合、教習所へ通ったが「免許が取得できなかった」というケースも起きます。障害の程度によってはこのようなことが起こることあります。

肢体不自由者の免許取得条件

一種免許に必要な身体機能

①視力 両目で0,7以上、かつ一眼でそれぞれ0,3以上であること。

*一眼の視力が0,3に満たないもの、または一眼が見えないものについては、他眼の視野が150度以上、視力が0,7以上であること。

②色彩識別能力 赤色、青色および黄色の識別ができること。

③聴力 両耳の聴力(補聴器使用も含む)が、10mの距離で90dbの警音器の音が聞こえること。

*補聴器を使用しても基準に達しない場合、または補聴器を使用して基準に達した人が、補聴器なしで運転したい場合は、運転免許センターで実車による臨時適性検査で適性が確認された場合、安全教育を受け、免許の条件を変更する。正し、この場合普通自動車に限られ、ワイドミラーの装着と聴覚障害者標識の表示が必要。

④運動能力 自動車の運転に支障を及ぼすおそれのある四肢又は体幹の障害がないこと。

*自動車の運転に支障を及ぼすおそれのある四肢又は体幹の障害があるが、身体の状態に応じた補助手段を講ずることにより、自動車運転に支障を及ぼすおそれがないと認められるものであること。

目安としては以下のような条件をクリアすることが必要とされていますが、最終判断は免許センターに委ねられており、杓子定規な判断はされていないのが実情です。

①自力での乗降

②ブレーキ踏力(手動レバーを含む)18kg程度

③ブレーキの持続時間30秒程度

④パーキングブレーキを操作できること

⑤5kgでのハンドル操作

*二種免許取得について

肢体不自由者が二種免許を保有しているという情報を当会では持っていません。(実際に二種免許を使って仕事をされている方がいらっしゃいましたら是非教えてください。

下肢に障害がある方の自動車へのトランスファー

自力でのトランスファーは、単に「自立した乗降」という意味に留まらず、

緊急時の車外脱出や、事故発生時にドライバーに課されている「けが人等の救護義務」を果たす上でも重要です。

実際にどのように乗降動作をしているかは、個々人の障害の状態や車種に依存する部分が多いのが現状ですので、これといった決まった方法がありません。

リハビリ施設のOTやPTが担当になりますので、病院などと接点のある方は相談してみてください。

基本的に自動車へのトランスファーは専門家の指導が不可欠です。

医療制度の関係もあり、入院中にトランスファーの訓練を受けていない方は、外来で受けられるよう医療機関と調整してください。

なお、なんら訓練を受けずに、自力でトランスファーに挑戦するのは非常に危険です。

海外で見かける車いすがそのまま運転席になる自動車について

海外では、車椅子のまま乗車し、車椅子がそのまま運転席として使える自動車がありますが、なぜ日本には無いのですか?という質問を受けることがあります。

確かに、座席へのトランスファーをせずに、車椅子がそのまま運転席になれば便利であるに違いません。

しかし、わが国の法制度では、車椅子をそのまま運転席として使うことは原則的に認められていません。

一部、海外で制作された当該用途の車両を輸入することで、国内でも使用可能という見解もあるようですが、

いずれにせよ、自分で乗降できない身体状況の方が本当に安全に運転できる能力を持っているのか?各自よく考える必要があると思います。

自動車用座席の保安基準(特に運転席)は、自動車部品の中でも最も安全規制の厳しい物に属しているといわれています。

10年ほど前にトヨタ自動車とダイハツが、自動車座席専用の車椅子を開発して販売したことがありますが、

自動車座席に必要な法律に適合する車椅子は高額でかつ大変重くなり、使い勝手は大変悪いものでした。

また、近年運転席がスライドして、乗降しやすいようにドア外まで出てくるタイプの後付けシートが流通していますが、こちらも上記の理由から保安基準に適合しないと当会は考えています。

肢体不自由者が使う運転補助装置

肢体不自由者がどのような運転補助装置を使うのか?は、免許センターでの適性検査で決定されますので、自分の希望や病院の指示で選択することは出来ません。

ただし、いくつかの装置については、任意で選択できるものがありますので、障害の状態によって、出来るだけ快適に運転できるように選んでください。

障害の程度によっては、ドアの開閉やシフトレバーの操作、ハンドルを握ることが困難など、アクセルブレーキ以外の操作での困難が伴います。

これらの状況でもサポート機器はたくさんありますので、装置メーカーのホームページなどで確認してみて下さい。

なお、運転補助装置の選び方と使い方についてはこちらのページをご覧下さい。

運転中の座位保持の重要性

肢体不自由者の自動車運転において、最も注意が必要なことは、運転中にいかにして座位を保持するか?と言えます。

自動車の運転は走行中の加減速や右左折時、また不整路走行や緊急回避時など、体を座席に保持することが難しくなる状況の連続です。

停車している状態や、教習所での低速走行時には表れない体の不安定さは、実際に公道を走ることで初めて経験するものです。

そして、そういう状況になったとき、自分の体が想像以上に不安定になり、場合によっては座席から倒れてしまうのではと、多くの方が感じます。

免許を取得したり退院後に運転再開をする際には、座位の保持について事前に工夫することが必要です。

詳しくは、運転補助装置の選び方と使い方のページをご覧下さい。

左アクセル装置を使う際の注意点

右足の障害や、右片麻痺などで、左足アクセル装置限定の免許を交付された場合、左アクセル装置を使うことになりますが、

左アクセル装置は自然に操作できるようになるまでに大変時間がかかる難しい機器です。

例えれば、右利きの方が左手で箸を上手に使うようなものと言っても過言ではありません。

慣れない期間では、ペダルの踏み間違えや操作の遅れが起きやすいことは、実際のユーザーの声でもあります。

手動装置などよりも一層の慎重さと、慣熟期間(訓練)が必要です。

右足でペダル操作がまったく出来ない状態であれば、左足アクセルを選択せざるを得ませんが、

不全麻痺などでかろうじて右足でペダル操作が出来るのであれば、出来るだけ通常のペダルで操作できるように訓練を積んでから適性検査を受けることをお勧めします。

なお、左アクセル限定の免許を交付されている方が、通常のペダルを左足で操作することは法律違反になります。

また、法律に関わらず、通常のペダルを左足で操作するのは、踏み間違いに直結する危険行為であり、やめるべきと当会は考えています。