病気や障害のある方の自動車免許制度

病気や障害のある方が自ら運転することによって、生活の質は格段に向上し、自立生活やよりいっそうの社会参加への道を広げるものですはありますが、一方で、病気や障害が原因となる交通事故も起きている事は事実です。

特に、運転中の意識障害や認知機能の障害は、重大事故へ繫がりかねない障害であり、ドライバー自身のみならず、第3者までを不幸に巻き込む恐れがあります。

2011年には栃木県鹿沼市で、ドライバーのてんかん発作による交通事故が発生し、6名の子供たちの命が失われました。

その他にも全国で同様な交通事故が発生しています。また、認知症等の認知機能障害に起因する、高速道路の逆走事案の発生等が契機となり、平成26年に道路交通法の大きな改正が行われ、病気や障害のある方の自動車免許の取得や更新(特に更新時)に新たな罰則が創設されるとともに、「危険運転致死傷罪」が病気や障害に起因する事故にも適用可能となりました。

危険運転致死傷罪3条での起訴件数 H26年6月~H27年3月 危険運転致傷 危険運転致死 合計
薬物(麻薬は含まない) 11 12
一定の症状を呈する病気等 13 13

免許の更新期限について

免許の更新は、通常免許証に記載された有効期限日となりますが、最大で6ヶ月先までだれでも再取得が可能です。(但し、失効免許の再取得は別途必要な手続きがあります)。

6ヶ月を超え3年以内の失効で、入院などのやむをえない理由で手続きが出来なかった場合、(やむをえない事情が止んで1ヶ月以内に申請(診断書などの提出)が必要)再取得が可能です。

また、病気や怪我で入院中で、期限内に更新手続きが出来ない場合には、更なる延長が可能です。詳細は医療機関、または免許センターへお問い合わせください。

なお、免許更新日まで手続きを行わないで失効期間中に自動車を運転することは「無免許運転」ですのでご注意を。

道路交通法の基本

 ■ 道路交通法には運転者の義務が規定されており、無免許、酒気帯びのほか、「何人も過労、病気、薬物の影響その他理由により、正常な運転が出来ないおそれがある状態で車輌等を運転してはならない」とされています。「道路交通法第4章第1節第66条」

この条文で重要なことは、「正常な運転が出来ない」ではなく「運転が出来ないおそれ」と書いてある点です。あくまでも「おそれ」があれば運転は出来ない、ということになります。では、正常な運転が出来ないおそれのある病気や薬物とは何か?といいますと、道路交通法90条に記載があります。

道路交通法第90条(抜粋)
 1、次に掲げる病気にかかっている者
  イ 幻覚の症状を伴う精神病であって、政令で定めるもの
  ロ 発作により意識障害または運動障害をもたらす病気であって政令で定めるもの
  ハ イ又はロに掲げるもののほか、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれのある病気として政令で定めるもの

上記の条文には、それぞれ「政令で定めるもの」と記載されています。では、その政令にはどのように書かれているのでしょうか?

道路交通法施行令第33条の2の3(抜粋)
   法第90条第1項イの政令で定める精神病は、統合失調症(自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除く)とする。
 2、法第90条第1項ロの政令で定める病気は、次に掲げるとおりとする。
   1 てんかん(発作の再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く)
   2 再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいう)
   3 無自覚性の低血糖症(人為的に血糖を調節することができるものを除く)
 3、法第90条第1項ハの政令で定める病気は、次に掲げるとおりとする。
   1 そううつ病(そう病及びうつ病を含み、自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除く。)
   2 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
   3 前2号に掲げるもののほか、自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気

つまり、具体的には以下の病気が該当(他にもたくさんの病気があります)しますが、法律上に具体的な病名の記載が無いのは、病名による一律の免許拒否(欠格事項)は差別を助長するため、基本的には、病名ではなく個別の患者の状況を評価した上での判断となります。(認知症については病名が診断された時点で取り消し処分の対象となります)

なお、法律上は病名の記載がありませんが、政令や施行令、通達を通じて対象となる病名は記載されています。

政令で定めている病名や症状は以下の通りです。

①統合失調症・そううつ病(運転に必要な能力を個別に判断する必要がある)
②てんかん(再発しないものや意識障害や運動障害が出ない発作、睡眠中のみに発生する発作は除く)
③再発性の失神
④無自覚性の低血糖(糖尿病他)
⑤自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力が欠くこととなるおそれのある病気(認知症他の認知機能障害や、肢体不自由等の身体障害)

*「おそれ」とは、一般的に「可能性」などと解されることの多い言葉ですが、法律用語としての「おそれ」は、単なる「可能性」ではなく、一定程度の蓋然性がある状態を指しています。

免許取得や更新の手続き

上記の病気等に該当する方が新規で免許取得を行う場合には、教習所へ通い始める前に地域の免許センターで適性検査を受けることが必要です。

受傷後や退院後の運転再開を希望される場合は、主治医または地元の免許センターに対して、自身の病気や障害が、上記道路交通法の「一定の症状を呈する病気等」に該当するかどうか?確認することが必要です。

免許取消し処分と自主返納制度

自主返納と聞くと「そんなことした人は多くない」と感じる方もいらっしゃいますが、意外と自主返納者は多く、また大幅に増加傾向があることが表から読み取れます。

増加する免許自主返納者数
主な都道府県の免許申請取消件数(自主返納者)警察庁発表資料より。

エリア H25年 H26年 H27年 エリア H25年 H26年 H27年 エリア H25年 H26年 H27年
北海道 3,469 5,338 10,400 東京都 19,067 28,616 43,846 新潟県 3,359 4,409 6,245
青森県 968 1,575 3,184 茨城県 1,678 2,668 5,024 山梨県 823 1,070 2,142
岩手県 647 1,210 2,574 栃木県 1,904 2,548 4,215 長野県 2,278 2,981 5,210
宮城県 1,024 1,906 3,941 群馬県 1,724 2,450 4,436 静岡県 6,738 9,504 13,544
秋田県 1,233 1,556 2,641 埼玉県 8,238 13,029 22,061 富山県 1,839 2,113 3,238
山形県 1,198 1,762 3,080 千葉県 6,100 9,093 15,654 石川県 897 1,493 2,554
福島県 1,251 1,611 3,519 神奈川県 8,573 12,910 26,724 福井県 774 1,033 1,737
エリア H25年 H26年 H27年 エリア H25年 H26年 H27年 エリア H25 H26年 H27年
岐阜県 1,570 2,128 3,520 鳥取県 680 929 1,807 福岡県 4,387 5,798 9,766
愛知県 7,265 10,467 17,749 島根県 909 1,228 2,128 佐賀県 598 916 1,438
三重県 1,127 1,592 3,190 岡山県 3,275 4,216 6,197 長崎県 1,114 2,050 3,674
滋賀県 1,638 2,132 3,536 広島県 2,623 3,920 6,514 熊本県 1,623 2,135 3,659
京都府 1,787 3,791 6,921 山口県 2,560 3,497 4,777 大分県 1,417 1,894 3,081
大阪府 11,337 23,770 34,734 徳島県 568 895 1,826 宮崎県 1,429 1,750 2,990
兵庫県 6,834 10,477 18,012 香川県 1,256 2,018 3,379 鹿児島県 3,052 3,404 4,439
奈良県 1,489 2,518 4,001 愛媛県 2,061 3,224 4,683 沖縄県 1,324 1,913 2,890
和歌山県 1,076 1,568 2,566 高知県 1,120 1,309 1,867        

運転をあきらめようと決めた場合、臨時適性検査を受けた上で免許取り消し処分を受けるケースと、臨時適性検査を受けずに自主的に免許返納をするケースと2種類を選択することが出来ます。

二つの選択肢には、それぞれ利点と欠点がありますので、理解した上で選択することをお勧めします。

●臨時適性検査を受けた後に免許取り消し処分になるケース

(利点)取り消し後3年以内に病気や障害が改善され、改めて行う臨時適性検査で合格すると、免許証を復活させることが出来ます。

(欠点)行政処分としての免許取り消しですので、後味は悪いですね。また、取消し処分を受けるまで時間がかかり、何度か免許センターへ足を運ぶ必要があります。

●自主返納のケース

(利点)自主返納者へ対して特別の行政サービスが提供される場合があります。例)タクシー券の配布等。(自治体によって異なります)。

(欠点)免許の再取得をするには、教習所へ通う必要があります。

自主返納手続きは、免許センターや警察署で行いますが、外出が困難な場合などは、代理人が申請したり、自宅や施設で手続きを行うことも出来ます。

罰則について

一定の症状を呈する病気等にかかる道路交通法には、罰則が適用となる法律があります。

①免許更新時の質問表への虚偽記載→懲役1年以下、又は30万円以下の罰金。

 免許更新時に質問表への回答が義務付けられています。

 この質問内容に虚偽の回答をすると、懲役1年以下、又は30万円以下の罰金の処罰を受けます。

②危険運転致死傷罪3条→最高刑 懲役15年

 「一定の病気や服薬」の影響で、事故を起こした場合に適用される場合があります。

移動のための代替手段について

残念ながら運転免許を取得することが出来なかった、あるいは受傷後の運転再開が認められなかった場合、移動のための代替手段を考えることが必要となります。

これまで自動車での移動をメインに暮らしてきた方は特に、代替の移動手段に見当もつかない、という方はたくさんいらっしゃいます。

しかし、日々の生活へ復帰されれば、次の日から買い物、通院、通勤などで、ある程度の距離の移動が必要になってくることは間違いありません。

こんな時、どのような代替手段を利用できるのか?出来るだけ、事前に調べておくことは大切です。

同居の家族や近居されている家族や親族のサポートが一番重要ですが、基本的には地方自治体(市町村)が何らかの移動支援事業を行っていますので、

役場の障害福祉課などに問い合わせて見ましょう。

また、地域には必ず社会福祉協議会が設置されています。

ここには地域で行われているNPOやボランティア組織が行っている移動サービスの情報を持っていますから、問い合わせてることをお勧めします。

それ以外にも、自宅周辺には、必ず同じような車での移動手段をあきらめて、他の手段で移動している方がいらっしゃるはずですので、

これらの近所の方からの情報も大切になります。

自治体や社協には登録されてはいないけれども、町会単位や小中学校の卒業生対象などの枠組みでの買い物支援などを行っていることもあります。

長い人生を車移動にのみに頼っていた方には、手探りのようにして代替手段を見つけるほかありませんが、必ずなんらの方法が見つかりますのでがんばってください。

全国の免許センター問い合わせ先

免許センターには「適正相談窓口」が設置されています。病気や障害に関わる免許手続きなどについて、不明な点があれば遠慮なく相談したほうがよろしいかと思います。

免許センターによっては、看護師が常駐しているところもあります。